投稿

巻頭言(抜粋)

 本特集が編集された2020年は、COVID-19パンデミック、いわゆるコロナ禍に見舞われた一年として記憶されよう。コロナ禍はあらゆる角度から「助け合いの諸相と陥穽」を顕現化した。  助け合いとは、人々がお互いに、他者がより好ましい状態となるように働きかけることであろう。よってそこには、誰の何をもって「好ましい」とするのか、何らかの価値基準や価値判断が存在する。しかし、「助け合い」「支え合い」という言葉には、それだけで大義名分、絶対的正義のような響きがあるがゆえに、その背後に潜在している価値観がその他の価値観より優先されるべきなのか、所与の価値観を優先することが他の価値観を脅かすことにならないのか、といった懐疑的な観点を含めた「やぼな」議論は敬遠されがちな側面もある。また、所与の価値観に別の価値観を脅かすような副作用があると気づいても、自身の正義を守るために、それらを看過・隠匿してしまうこともある。独善的な正義や助け合いを振りかざし合うことによる軋轢が随所にみられる現代社会の様相は、そのような風潮の蓄積によるところも小さくないのではないだろうか。  そこで必要なのは、さまざまな文脈における助け合いの客観視と相対化、そして自省と自己懐疑であろう。あらゆる助け合いの背景に、どのような価値観や駆動要因があるのかを明確にするとともに、それらの助け合いの波及効果を広く深くとらえることを通じて、それぞれの重要性のみならず、その「陥穽」、すなわち問題点や副作用についてまで理解を深めることは、社会のバランスを柔軟かつ適正に保つような助け合いのあり方を模索するために必要不可欠であろう。さまざまな助け合いのニーズが顕現化しつつも、実際にはそのしくみが機能不全に陥り、思わぬ副作用を生み出すことも多い現代社会だからこそ、あえて助け合いの諸相とその陥穽について論じることが求められるのではないだろうか。  本特集「助け合いの諸相と陥穽」は、研究者から実践家まで、初学者からベテランまで、心理学に携わるあらゆる人々に、助け合いが心理学全般に通じる根幹的なテーマであること、同時にそこには多様なアプローチの可能性があること、さらに助け合いを考える際にはさまざまな陥穽も無視できないことを示すことで、助け合いを基軸とした心理学研究を全般的に活性化するというコンセプトのもとに企画されたものである。 「巻頭言

論文

各論文のPDFファイルは,著者が自身のWebサイト等,管理責任の及ぶ範囲で公開しているものです.なお,本特集号の全ての論文が公開されているわけではありません。 著作権は心理学評論刊行会に帰属します.ご利用に当たっては著作権法に従ってください. 第63巻3号 助け合いの諸相と陥穽(1) 巻頭言 助け合いの諸相と陥穽―特集号の刊行にあたって― (橋本 剛) 同情と感謝―助け合いを支える二つの感情の機能と陥穽―(山本晶友・樋口匡貴) 文化に誘導された感情の意味―山本・樋口論文へのコメント―(一言英文) 助け合いとしてのアタッチメント(古村健太郎・戸田弘二) これからのアタッチメント,助け合い,親密性の研究を考える―古村・戸田論文へのコメント―(金政祐司) 助け合いの社会神経科学(上田竜平) 助け合いの「陥穽」研究の展開に向けて―上田論文へのコメント―(相馬敏彦) なぜ人は助け合うのか─利他性の進化的基盤と現在─(小田 亮) 正の同類性と協力者のシグナル―小田論文へのコメント―(大坪庸介) 助け合いの文化心理学(新谷 優) なぜ人(ヒト)は協力し助け合うのか,そして文化比較研究の意義とは―新谷論文へのコメント―(石井敬子) 第63巻4号 助け合いの諸相と陥穽(2) 孤独感と対人環境の再帰的構築(五十嵐祐) 共感性の負の効果―五十嵐論文へのコメント―(森久美子) Dark Triadと向社会性:向社会的な社会に向けて(下司忠大・小塩真司) ダークなパーソナリティは社会の向社会性の維持・向上に寄与するのか―下司・小塩論文へのコメント―(浦 光博) チームワークの光と影(山口裕幸) チームにおける助け合いに潜むもう一つの陥穽―山口論文へのコメント―(坂田桐子) 学業的・社会的領域の目標と学業的援助要請に関する包括的レビュー―援助を求めることは常に最善か?―(中谷素之・岡田 涼) 臨床心理学領域の援助要請研究における現状と課題―援助要請研究における3つの問いを中心に―(永井 智) 援助要請の諸相と陥穽 ―中谷・岡田論文と永井論文へのコメント― (橋本 剛)